RESEARCHES

科研費

「失語症発症で戸惑う患者の気持ちの様相と看護ケアの探索的研究」

失語症発症で戸惑う患者の気持ちの様相と看護ケアの探索的研究

研究期間:平成29年~平成31

研究目的

現在日本には、脳神経疾患による失語症をもつ方々が50万人以上存在すると言われています。失語症は、コミュニケーションが上手く取れないことを理由に、職場や家庭復帰困難なケースがあり、社会から孤立してしまう場合も多いとされています。また家族においても精神的動揺を感じてしまうと報告されています。近年、失語症の患者さんや家族を支援しようと、言語聴覚士の言語聴覚療法や市民の方々による会話パートナーの活動は活発になっています。しかし、看護師による失語症体験者への心理的ケアは確立されているとは言ません。とりわけ、失語症を発症した急性期は衝撃と混乱を伴うとされ、看護師の適切な対応や失語症への理解が重要です。失語症患者さんとその家族に対する看護については看護基礎教育で十分に修得するカリキュラムは未だ存在していません。また、看護師向けの支援ガイドも存在していませんでした。

そこで、本研究では、急性期失語症者の気持ちの様相を明らかにし、その気持ちを踏まえた看護ケアガイドを作成することを目的に行われました。

 

研究方法

第1段階

失語症発症に戸惑う急性期失語症者の気持ちの様相を明らかにするために、国内外の文献検討を行い、急性期失語症者とその家族の気持ちの様相を、発症2週間を期間として図式化し明らかにする

第2段階

急性期失語症者の経験を現象学的に分析し、文献検討で得られた結果を合わせて、今後の看護ケアに繋がる示唆を考察する

第3段階

前述の研究結果をもとに、急性期失語症者とその家族の心理を支援する看護ケアガイドを作成する

第4段階

失語症回復者や医療職の有識者にインタビュー調査を行い、内的妥当性を検討する

第5段階

内的妥当性の検討結果をもとに、看護ケアガイドを完成させる

 

研究結果

それぞれの段階に沿って得られた結果を報告します。

第1段階

失語症患者本人が急性期に抱いた気持ちが書かれているデータを検索し、該当した66件を分析しました。結果、11のカテゴリーを抽出しました。またこの結果から、失語症を伴う急性期患者の発症直後の気持ちは、急性期患者の喪失と危機から起こる障害受容過程のショック段階い類似していました。しかし、失語患者特有の気持ちの様相として、【話せないこと、読めないことでできないことに直面した苛立ち、悲しみ】【繰り返されるコミュニケーション困難によって生じる不安定な感情】があることが分かりました。

失語症患者を支える家族も同様に、急性期に抱いた気持ちが書かれているデータを検索しました。該当した80件を対象とし、13のカテゴリーを抽出しました。この結果から、気持ちの様相は患者と同様であったこと、医師からの説明等のイベントも影響したいたこと、さらに言葉がないことで思いを想像し家族の繋がりを感じ始めるといった療養生活に良い影響を与えること、が分かりました。

第2段階

失語症をもつA氏と看護師の関わりの場面の参加観察と、研究者との対話を現象学的に分析・記述しました。結果、急性期失語症者の経験は、既存の理論や医学的枠組みに当てはめては決して見えない経験の側面であったことが分かりました。そこから得た考察として、意思疎通が困難とされる一方で、多くの言葉を介さずとも、看護師のやり取りの場面が成立している経験は、「文脈があること」「ふるまいから意味を感じ取る」こと、やり取りの相手のふるまいに向けられる「関心がある」ことによって成り立つと考えられました。

第3、第4段階

病棟で容易に読め理解しやすいように工夫したB5冊子のガイド案を作成しました。失語経験があり現在回復しているサバイバー、言語聴覚士、臨床看護師、リエゾン看護師又は臨床心理士の計8名からインタビューを行いました。様々な意見からガイド案の修正を行いました。

第5段階

これまでの研究結果を踏まえて、言語聴覚士、臨床看護師、脳卒中看護リハビリテーション認定看護師、脳神経系看護領域の看護学修士および博士号をもつ看護学研究者に最終確認を行い、看護ケアガイドを完成させました。

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